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東京高等裁判所 昭和24年(ネ)257号 判決 1949年11月12日

控訴人 原告 藤本保

訴訟代理人 岡本繁四郎

被控訴人 被告 栃木縣選挙管理委員会

指定代理人 亀井一

主文

本件控訴は之を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

控訴代理人は、原判決を取消す、被控訴人が昭和二十三年六月二十三日為した裁決(昭和二十三年四月二十八日行われた下江川村農地委員会の委員選挙に於ける控訴人の当選に関する異議申立を却下した下江川村選挙管理委員会の決定を取消し控訴人の当選を無効とする)を取消す、訴訟費用は第一、二審共被控訴人の負担とする旨の判決を求め、被控訴代理人は主文第一項同旨の判決を求めた。

当事者双方の主張事実は、控訴代理人に於いて、原判決は、控訴人が原審に於いて、昭和二十三年十一月八日附にて、被控訴人の指定代理人矢野愼治は、栃木縣選挙管理委員会の委員であつて、昭和二十二年十二月十七日法律第百九十四号「国の利害に関係のある訴訟についての法務総裁の権限等に関する法律」第五条に定める職員ではないから該指定代理は不適法であるとの申立をしたのに対し、何等の判断をしなかつたのは違法である。昭和二十四年八月十八日の選挙によつて後任の下江川村農地委員会の委員が選挙せられたことは認めると述べ、被控訴代理人に於いて、矢野愼治は後に被控訴人の委員長として従前の訴訟行為を追認したから適法である。昭和二十三年四月二十八日の選挙によつて選出せられた農地委員は昭和二十四年六月三十日任期が満了し、同年八月十八日の選挙に於いて後任者が選ばれて就任したから本訴裁決取消の利益はなくなつたと述べた外は、原判決事実に摘示するところと同一であるから之を引用する。

証拠として控訴代理人は甲第一乃至第十三号証、第十四号証の一、二、第十五号証を提出し、原審証人古口利雄、堀江常男池尻精一、菊地隊次(第一、二回)藤沼武男、当審証人高津戸藤太、八板明、横島保平、佐藤粂雄の各証言、原審における控訴本人訊問の結果を援用し乙第四号証の成立は不知、その余の乙号証の成立を認め、乙第二号証、第三号証の一乃至三を援用し、被控訴代理人は乙第二号証、第三号証の一乃至三、第四号証を提出し、原審証人木島操(第一、二回)木島五市、当審証人横島保平、佐藤粂雄の各証言を援用し、甲第四、第五号証第八乃至第十一号証の成立は不知、その余の甲号証の成立を認めた。

理由

原審において被控訴人委員会の委員矢野愼治が被控訴人から代理人に指定せられて訴訟行為をしたことは記録上明かであるが、記録第八十三丁の「資格変更の申立」と題する書面並びに之に添附せられた会議録の写(当裁判所は右会議録は真正に成立したものと認める)によれば、矢野愼治は昭和二十三年十一月五日被控訴人委員会の委員長に就任したことが認められ、次で昭和二十三年十一月八日の口頭弁論調書によれば、同人は同口頭弁論に被控訴人の代表者として出頭の上、矢野愼治が従前指定代理人として為した訴訟行為を追認したことが明白であるから仮に従前の訴訟行為に何等かの瑕疵があつたとしても追完され適法となつたものでこの点に関する控訴人の主張は理由がないから排斥する。

よつて内容え入つて判断するに、昭和二十三年四月二十八日下江川村農地委員会の委員の選挙が行われ控訴人が小作層の委員として当選し、之に関し控訴人主張のような異議の申立、異議申立却下の決定、訴願、裁決の各行われたことは当事者間に爭がない。

然るに昭和二十三年法律第二百三十七号「市町村農地委員会及び都道府縣農地委員会の委員の任期等に関する特例に関する法律」第一条によれば、前記選挙によつて選挙せられた委員の任期は昭和二十四年六月三十日までとすることに定められ、更に昭和二十四年法律第二百十五号「農地調整法の一部を改正する等の法律」第四条により同法律施行後最初に行われる総選挙の日まで存任することゝなり、次で同年政令第二百二十四号によつて、市町村農地委員会の委員の総選挙は同年八月十八日行われることに定められたことは当裁判所に顯著であるところ、本件下江川村に於ても同日村農地委任会の委員の選挙が行われ後任の委員が選挙せられたことは当事者間に爭がない。

然らば仮に控訴人主張のとおり控訴人の当選が有効であつたとしても、控訴人の本件下江川村農地委員会の委員たる任期は満了し、既にその資格は消滅したこと明かであるところ、本件訴訟は被控訴人の為した裁決は、控訴人に被選挙権があるのに之を無視して控訴人の当選を無効と認めたのは違法であるから之が取消を求めると云うのであつて、控訴人に被選挙権の有るか無いかを判定するのは結局之によつて当選の効力、即ち控訴人の委員たる資格の存否を確認するために必要であつて、本訴は元より単純に被選挙権の有無丈を決定することを目的としたものでないことは明白である。従つて本訴のような当選に対する不服の訴は、唯委員たる資格があることを主張するものだけが之を為すことが出来るのであつて、任期満了により既に委員たる資格を失つた以上、本件裁決の違法なるか否かを判断するの実益は最早存在せざることとなり、本訴は、その理由がないものと認める。よつて控訴人の本訴請求はその理由がなく、控訴人の請求を排斥した原判決は結局相当で本件控訴を理由がないものと認め、民事訴訟法第三百八十四条、第九十五条、第八十九条に則り主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡辺葆 裁判官 山口嘉夫 裁判官 牛山要)

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